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豊原治彦 (副会長・庶務担当)

摂南大学農学部応用生物科学科

 

 私は、現在は大阪と京photo都をまたいでキャンパスが広がる新設の摂南大学農学部に勤務しております。以前は京都大学の農学部に勤務しており、30年以上も前になりますが大学院を出てふらふらしていたところを、本研究会の創設メンバーの一人である志水寛先生に拾っていただきました。その縁から、かまぼこ研究のお手伝いさせていただき、すり身を60℃くらいで加熱すると時として起こる、かまぼこゲルの分解現象(火戻り)の原因酵素を見つけることができました。それ以来、食品だけでなく、いろいろ生物現象(例えば干潟の浄化能力や貝殻の形成など)を「酵素」という観点から研究してまいりました。

 摂南大学に移ってからは、いきなり新型コロナで授業がオンライン化するなど想定外のことが頻発し研究は進んでおりせんが、沖縄本島沿岸域の調査についての研究班に入れていただき、細々ですが老体に鞭打ってできることをやっています(コロナ禍のため思うように出張ができず、研究はほとんど進んでおりませんが)。
 摂南大学農学部には4つの学科があるのですが、私はその中の「応用生物学科」に属しています。水産関係は私の属している「海洋生物学研究室」(本会の編集委員長の増田先生も同じ研究室です)ひとつだけなのですが、ありがたいことに少なからぬ学生が水産研究をやりたいと言ってくれており、若者の間でも根強い水産人気があることに驚いたり、喜んだりしております。
 水産指向の学生さんに話を聞くと、彼らと水産物との結びつけにおいて「回転寿司」が重要な役割を果たしていることが分かってきました。回転寿司は安価に寿司を提供するという点においても、とても重要な役割を果たしてくれています。
 寿司は不思議な食べ物です。日本人の好きな食べ物ランキングにおいて、カレーや焼肉と戦って常に上位を占める数少ない水産食品であり、回転寿司のように安価に食べられる店があるかと思えば、おまかせで1万円以上、所によっては数万円もするお店もあります(しかも予約困難店)。その理由としては、高い寿司では材料の吟味に加え、本来の江戸前寿司の手間賃が加算されていることを挙げることができると思います。
 最近はこの「手間」の部分を科学的に解明できないものかと考え、少ない小遣いを削ってすし屋通いをしております。これからの伝統食の研究を進展させてくださる若い研究者のために、例えば「江戸前寿司の秘密の解明」というような科研費が当たれば、研究費でお寿司屋さんに行けるような時代が来ればよいのにとひそかに願っております。
 恩師の志水先生の忘れられないお言葉のひとつに、「魚は新鮮だから旨いわけではない。むしろ塩干品など少し手間をかけた魚の方が旨いと私は思う」というのがあります。江戸前寿司もその1例かもしれません。
 「灰干し」もまた別の美味しい魚の加工法のひとつといえると思います。火山灰に魚を埋め込んで乾燥させるという方法ですが、実は古くからある伝統的加工法ではなく、いわゆる「浸透圧脱水シート」が開発されてから実用化された新しい加工法のようです。「浸透圧脱水シート」というのは、半透膜でできたシートで、水やイオンなどの低分子成分は透過させるが、旨味成分のような高分子成分は透過させない機能を持つシートで、吸水剤をサンドイッチ状に挟み込んだものもあります。火山灰に埋め込む最大のメリットは、酸素と魚を遮断することで、魚特有の嫌な臭いの原因となる不飽和脂肪酸の酸化を抑制できることです。そのため、塩処理した魚をこのシートに包んでから火山灰に埋め込むことで、魚の自己消化による熟成と、その結果生じた旨味成分の濃縮が可能となり、これまでにない美味しい魚を味わうことができます。灰干しは、「浸透圧脱水シート」という新技術が可能にした新しい伝統食品といえるのかもしれません。写真は灰干しノドグロ(アカムツ)の市販品とそれを焼いたものです。実際に食べてみて、これまでの塩干品のワンランク上の旨さと思いました。ぜひ酵素学的な観点からの研究ができればと思っています。
 コロナ禍で出張もままならないので、最近は上記のような趣味と研究の境界線上にある水産グルメテーマに興味を持って、日々を過ごしております。伝統食品研究会の発足においては、「垣根の低い誰にでも興味を持って入っていただける学会」を目指していたと聞いております。このホームページが、わが国が誇る伝統食品についての情報交換の場となり、伝統食品の継承だけでなく、そこに眠る知恵を活かした新しい伝統食品が生まれる場となることを願っております。

 

 

       
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